開業臨床でのカウンセラーの役割について

コラム

先日、愛知県臨床心理士会主催の一日研修会において、開業臨床についての話題提供者として登壇させていただきました。一緒に登壇させていただいた大先輩の先生からは、長年のご経験をお話しいただき、私からは開業臨床の実際の様子を紹介させていただきました。

「開業臨床」って?

「開業臨床」という言葉は、心理士業界以外の方には耳慣れない言葉かもしれません。カウンセラーが働く場所は近年広がり続けていますので、カウンセラーがどこで心理臨床を行っているかを表す際に、病院臨床、学校臨床などといった表現を用いて区別しています。臨床心理士会では、多領域で働くカウンセラーがより良い支援を行うために、専門分野ごとの部会を作り、日々研鑽に励んでいます。

開業臨床とは、病院や学校、福祉といった公的機関ではなく、民間の事業として、心のカウンセリングを行う領域のことを言います。カウンセリングを行うお店ということです。病院臨床や学校臨床では、公的な補助により自己負担が少ない形でカウンセリングを受けることができる場合も多くあります。しかし、民間事業である開業臨床では、そのような補助がないため、料金がどうしても高額になってしまいます。高い料金を払っても受けたいと感じてもらえるような役に立つカウンセリングを提供できなければ、経営を続けることはできません。

開業臨床を長く続けていらっしゃる先生方は、本当に素晴らしいカウンセリング技術を持っています。研修会ではそういった先生方から、これまでの貴重なご経験を拝聴することができ、たくさんの刺激を受けることができました。

心のカウンセリングは、日々のちょっとしたストレス解消から深い心の問題の解消まで、扱う事柄は幅広く、一般的には悩んでいる期間が長い問題ほど、ケアにも長い年月を要します。しかしながら、教育分野では、学校を卒業したら学校のカウンセラーとは関わりが持てなくなることが多く、会社を退社したら、会社のカウンセラーからカウンセリングを受けることが難しくなります。人生は組織に所属している期間よりずっと長く、多くの変化を伴います。

そんなたくさんの変化の中を、一緒に乗り越えていく心のパートナーとして、開業臨床は所属組織の変化に関係なく、心のケアを続けていく事ができるという面で、重要な役割を担っていると感じています。

愛知県臨床心理士会一日研修会では

研修会では様々なご質問を頂きましたが、一番多く話題に上がったのが、カウンセラー自身の経済的な不安でした。開業臨床では公的機関や大きな組織からの経済的支援はありませんので、利用される方に高額なご負担を頂いても、真面目に研修や訓練を受けているカウンセラーほど、手元に残るお金はほとんどありません。そういった実情は変えていかなければならないものの、それでも考え続け学び続けなければ、心の問題を扱うことはできません。

相談をする方の思いを一緒に抱えて生きていくためには、相応の覚悟がないとやっていけないという事なのではないでしょうか。

カウンセラーの質の向上

ここ数年で心理カウンセラーという職業が社会に定着し、カウンセリングを受けることに対する抵抗感はかなり減ってきたように思います。しかしながら、色々なカウンセラーがいるのも事実であり、他のカウンセリングルームで思うように相談できず当センターにお越し下さる方もいらっしゃいます。

身近になりつつあるカウンセリング業界の信用を失わないよう、そして、諸外国のようにカウンセリングがもっと当たり前の社会になっていけるよう、これからも学びを続けていかなければならないと改めて感じました。

思うままに述べさせていただきましたが、総じてとてもよい機会となりました。ご参加下さった先生方、貴重なご意見をくださいました先生方、ご準備等ご尽力くださいましたたくさんの先生方に感謝申し上げます。この感謝を日々の臨床でお返しできたらと思っております。

(文:小暮幸子)

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