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話を聴く(傾聴)とは何だろうか?

心理療法

今回は、話を聴く際に重要と言われる「傾聴」について、ご紹介します。

相手のことを理解したり、相手との信頼関係を深めていくうえで、傾聴はとても重要です。アメリカの心理学者であるC.R.ロジャーズは、人の悩みや環境への不適応は、「経験」と「自己概念」の不一致と関連していると指摘しています(図1)。

「経験」とは、いま経験していることすべてを指しており、「自己概念」は、「自分はこうである、こうしたい、こうすべきだ」などの自己への意味づけのことを指します。

例えば、就職活動において、「採用面接では積極的に発言したい、発言すべきだ」という自己概念を持っている人が、実際の採用面接において上手く話せなかった(と自分では思っている)経験をすると、「自分はダメな人間だ」、「自分は就職出来ないのではないか」と不適応感が強まってしまいます(図1)。

このような時に、丁寧に自分の気持ちを傾聴してもらうことで、経験において見落としていた部分に気づいたり、自己概念を見つめ直すことができるようになります。

その結果、経験と自己概念との不一致に気づき、自己理解を深め、今後の対処の方向性を自ら見出していくことができるようになります(図2)。

その際、自己概念と矛盾する経験は、否認されたり、気づかれることもなくスルーされてしてしまうことがよくあります。

先ほどの採用面接を例にすると、例えば「自分は引っ込み思案である」など固定的な自己概念が強いと、面接官の質問に上手く答えた場面があったとしても、「たまたま回答を用意していた質問だったから」とか、「面接官が話しやすかったから」などと、自分の成功体験に焦点が当たらないように歪曲してしまうことが多いです。

このような自己概念は、幼少期からの他者との相互作用の経験によって徐々に作られていくと考えられています。例えば、小さい頃に親や先生に何か意見を言った時に、否定されたり、受け止められない経験を重ねていくことで、「相手に受け入れられるためには、自分は大人しくしていた方が良い。そういう性格なのだ」という自己概念が作られていったのかもしれません。

一度形成された自己概念を見つめ直すことは、大きな不安や苦痛を引き起こすことがあります。

その時に、「どのような自分であっても否定されず、受け止めてもらえる」他者の存在や態度は、非常に重要といえます。先述のロジャーズは、このような態度のことを「無条件の積極的関心」もしくは「受容」と名づけ、傾聴における重要な態度の1つとして挙げました。

さらにロジャーズは、傾聴において重要な態度を2つ挙げています。

1つ目は「共感的理解」です。先ほどの採用面接の例を挙げると、面接官の前に立った時に、その学生さんがどのような状態になっているのかに関して、聴き手がどれだけリアルに想像できているか、ということが重要になります。

例えば、面接官の前では、身体は硬直して、心臓はバクバク、のどはもうカラカラになっているかもしれません。

また、「面接官に失礼があったらどうしよう」、「ここで上手く答えられなかったら自分はもう終わりだ」、「こんな自分がこの会社に受かるわけがない」ということで頭がいっぱいになっているかもしれません。

聴き手自身が、相手の話や表情などから、相手の抱いている苦悩をきちんと理解し、「そんな状態で面接を受けているなら、それは本当にお辛いでしょうね」と伝えた時、相手も「そうなんです」と心から言ってくれるような関わりを重ねていくことで、相手は「話をよく聴いてもらえている」と感じられるようになります。

もう1つの重要な態度は、「一致」もしくは「純粋性」です。

言葉を変えると、「素直に聴く」、「嘘をつかない」ということになります。先ほどの例だと、相手の置かれている苦しみを十分に理解していない段階で、「本当に辛いんですね」と伝えたところで、その言葉は空回りしてしまい、相手の心に響かないものとなってしまいます。

相手の気持ちがまだ十分に分からないと思った時には、むしろ、聴き手の方から「もう少し詳しく聞かせてほしい」、「私のこのような理解で合っているだろうか?」などと相手に尋ねた方が、相手からすると、「私のことを理解してくれようとしている」と好感を持って受け止められるはずです。

ロジャーズの中核三条件

「無条件の積極的肯定」、「共感的理解」、「一致」この3つが傾聴において重要な態度であり、「ロジャーズの中核三条件」と呼ばれています。

「相手の話を傾聴したい」「相手のことを理解したい」と思った時には、上記の態度を心がけると良いと思います。

しかし、言うは易く行うは難しいものであり、様々な関係性や現実的な制約の中で、傾聴的な態度をとり続けるのは、困難な場合も多いでしょう。

話を聴くプロであるカウンセラーであっても、長年にわたる訓練の中で、少しずつ身につけていくものであり、その重要性を理解していく態度であると言われています。

傾聴について詳しく知りたい場合は、本ブログの執筆時に参考した、「傾聴の心理学 PCAをまなぶ:カウンセリング/フォーカシング/エンカウンター・グループ 坂中正義編著 創元社」が入門書としてお勧めですので、ぜひお読み頂けたらと思います。

(文:奥村哲朗)

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